星降る宙のダンデリオン STORY

星降る宙のダンデリオン ストーリー

 

◆ ラベンダー・フリート結成前夜
2200年に銀河系各恒星系への進出を経て地球人類が銀河人(ギャラクシアン)を自称し、銀河連邦を創設以来、連邦構成国及び直轄領においても種族別の構成比率においては常に銀河人が最大多数であり、地球以外の惑星を発祥の地とする種族は少数派であった。

そうした異なる惑星の生態系を出自とする種族と銀河人の間には生物的、社会的、文化的にも大小問わず、多種多様な違いが存在していた為、同じ連邦内においても少なからず軋轢が発生していた事は想像に難くない。

当初、この問題について連邦が取った解決策は連邦加入国同士であっても、原則として各国の統治から経済活動までもその国の範囲内で完結させ、他国及び連邦は連邦法が定める法律の範囲内においては干渉する権利を認めないという相互不干渉主義であった。

この相互不干渉主義という考えは徹底しており、各種族・国家の国民による衝突とその弊害を最大限に回避する為、銀河連邦宇宙軍(U.G.S.F.)においても、各タスク(任務)とそれを実行する戦力はそれぞれ種族・国家単位で割り当てられ、主たる構成人員は銀河人であった。

それ以外の種族によって構成される戦力は各種族による単独運用として扱われ、U.G.S.F.の有機的な連携に支障を来していたのも事実である。
長年にわたり、U.G.S.F.の装備と運用思想、そして軍規は全て銀河人を基準としており、これに他の種族を適応させる負担を連邦が嫌ったというのが実情である。

しかし、こうした思想は突然その終焉を迎えることとなる。
その理由は、2845年に発生したゾ・アウス(連邦側コードネーム・軍事帝国)との国境紛争である。
開戦直後、外宇宙の国境線を守る前衛艦隊群における銀河人の人的損失は連邦史上最悪の50%に達し、銀河人と他の種族を同一の戦力或いはタスクに組み込む事は無い、というこれまでの慣例はもはや維持出来ない状態となり、銀河人、そしてそれ以外の他種族も交えた戦力によって、各タスク・ミッションに望まねば、U.G.S.F.の組織的運用は困難であるという認識が、上層部でも認識する所となった。

ここに、相互不干渉主義という建前で銀河人以外の種族をスポイルする事で軋轢をさけつつ、銀河連邦の平和を維持するという方針は見直される事となったのである。
ここで最大の障壁となったのは、銀河人はもとより、連邦内に存在する多種多様な種族の生物的・社会的・文化的特性の差異だった。

宇宙艦隊という閉鎖環境で、それぞれ特性の異なる種族同士が共存するには、その組織の構成員に求められる他者に対する許容範囲を、これまでの銀河人のみを主とする考え方から、それ以上に拡大しなければならなかったのである。

こうした組織の構成員による他者への許容範囲の拡大に迫られる事態は、決してこの時代だけにあった物ではない。
かつて地球時代、各地域の民族ごとに隔てられた国家群が成立した時、そしてそれら国家群が更にその国境を取り払い連立した時も、その民族、地域、国家の構成員は新たに合流する異なる存在を受け入れる為に幾度と無く衝突と克服を繰り返してきた。

しかし、それらは同じ銀河人(地球人)同士であったという事は勿論、その中でも社会の許容範囲を大きく超えた存在を排除する事で辛うじて達成出来ていた事である。

銀河人とそれ以外の種族として考えた場合、種族規模の許容範囲拡大は極めて困難な問題であった。

U.G.S.F.艦隊司令官の一人、アレクセイ・マイヤーも組織としてのU.G.S.F.の脆弱さには司令官就任当時から問題視しており、この問題の早期解決を図るべく、一つの組織において大きく特性の異なる構成員同士がより寛容さを得る事によって、与えられたミッションを達成できた記録が無いか、連邦最大の人工知能クラスター、FEDCOM-5に対して照会をかける機会を得るべく奔走していたが、司令官就任から幾年後、ついにFEDCOM-5にアクセスする権利を得た彼に提示された解決法は極めてユニークな物であった。

それはニューコム系列・ゼネラルリソース系列双方の同業種企業において1件づつ、ほぼ同時期に発生しており、また、同業種においては極めて大きなイノベーションを産んでいたが、あくまで民間での成功例という事であり、これまではU.G.S.F.という軍組織の運用論において見落とされていたエピソードを活用する事だったのである。

Company Code-765、Company Code-346でそれぞれ生じた事例は、極めて人格的な特性が異なる人員同士を同一タスクに組み込みつつ、大きな成功を収めていた。
この事例を応用する上での必要条件をFEDCOM-5は次のように提示した。

1.組織の責任者は各構成員の特性については常に肯定的な立場を取る事が可能かつ、冷静な判断が可能な人物とする事
2.組織の構成員については、各構成員の特性による総合的な能力の揺らぎを吸収出来る様、組織内においての中央値に位置する人物を一定数有する事
3.組織の負うタスク・ミッションについては、構成員全員の目標と合致するように配慮する事

無論、このケースを直ちに適用するにはU.G.S.F.の全戦力はあまりにも大きすぎたのも事実である。

そこでまずモデルケースを実践し、その結果を元にU.G.S.F.内でも適用範囲を広げ、複数種族の混成が可能な戦力を増やす事によってその稼働率を改善させる計画が持たれた。

マイヤーは性急過ぎる銀河人と特性が大きく異なる種族との混成は避け、比較的特性の近い種族での混成戦力の構成モデルを実施する事で、確実な結果を出すべく、モデルの選定をFEDCOM-5に委ねた。

結果、銀河人とほぼ同一の起源を持つ種族として最適なモデルとしてあげられたのは2489年に銀河連邦に加入したボスコニア共和国の構成種族「ボスコニアン」であった。

ボスコニアンは銀河人の女性に極めて近い外見を持ちながらも、ボスコベースと呼ばれる世代型宇宙船でかつて銀河系各地を回遊し、資源の奪取を行っていた戦闘種族であり、長期の閉鎖空間における生存に適応する為に、遺伝子改造を繰り返しており、性別や感情という概念を消失した単一性人種である。

かつては戦闘行為に特化された体格と人格からしばしば銀河人からは無慈悲な宇宙海賊とも、狂戦士とも揶揄されたほどに、疎まれる事もあったボスコニアンであったが、連邦加入後の同化政策によって銀河人との混血化が進んでおり、現在その大半を占める混血種においては、銀河人との親和性はかつてよりも向上していたが、完全な共同関係を結べるまでには至っていなかった。

この事から、銀河人・ボスコニアンによる混成戦力の運用とその成功モデルを共有し、U.G.S.F.全体での種族混成運用のモデルとして活用させるべく、特務混成艦隊「ラベンダー・フリート」の設立と運用を行うべく、プロジェクト・ラベンダーが提案されたが、その発動は、西暦2988年まで持ち越される事となる……

そして2988年、ボスコニア共和国首都星・惑星ダンデリオン3で一人の銀河人「カケル・ルナーサ・ダヴェンポート」と銀河人との混血ボスコニアン「ジョディ・ライマー」が運命の出会いを果たす。
その瞬間、ラベンダー・フリートと二人の運命の歯車は回り始めたのであった……