民間軍事会社の勃興
銀河連邦の各企業体が軍事組織を所有するようになったのは地球時代(AD:2012以降)からと言われている。
当初は新興企業だったゼネラルリソース社(ゼネラルグループ)傘下のGRガーディアン・マーセナリーズ(GRGM)が、そこから分離する形でAD:2030以降にはゼネラル航空警備保障(GRDF)が設立され、ゼネラルグループから離反したニューコムグループもNeucom Emergency Unitを設立しこれに対抗した。
以降、2900年の現在に至るまでゼネラルグループとニューコムグループは双方の所有する軍事組織を以て度々軍事衝突を繰り返し、銀河連邦における内患の種であり続けた一方、これら企業軍を有事にはUGSF傘下に組む等、UGSFの補助戦力として活躍する事もあった。
民間軍事会社の適切化法案
2900年代に入り、銀河連邦は複数の敵を相手取り、国境を維持しなければならなくなった。
軍事帝国(ゾ・アウス)は言うに及ばず、UIMSやバクテリアン、ベルサーと言った機械生命体種族、更に異なる世界線から襲来した生体兵器集団バイド、外宇宙種族ギャラガ・リーグ等々、銀河連邦の生存領域が拡大するほど外敵は増え、銀河連邦宇宙軍UGSFは対処しなければならない脅威は増加の一途を辿り、最早UGSFだけでは対処が困難な状況に陥っていた。
そこで目をつけられたのがゼネラルグループやニューコムグループ等巨大企業体が所有する私企業軍である。
これを有効活用し、外敵への対処を行うべしと言う声がUGSF内部から出て来る事となった。
しかし、問題はあった。銀河連邦は特に連邦を二分するゼネラルグループとニューコムグループの内戦による連邦内部への被害を防ぐ為、各企業体が所有する戦力の上限と兵器のグレードも厳しく制限されており、これら外敵と優位に渡りあえるだけの戦力を持っているとは言い難い状態だった。
戦力数の上限を増加させなければ外敵と渡りあえない、さりとて上限を増価させれば内乱のリスクが高まると言うジレンマが横たわっていたのである。
こうしたジレンマに対し、UGSFのアレクセイ・マイヤー中将は次のように民間軍事会社を適切化する草案を起稿した。
- 各民間軍事会社の保有する戦力数は10個師団レベル(艦隊にして5個艦隊)までに制限する(従来の10分の1)
- 各民間軍事会社の保有する兵器のグレードを内宇宙艦隊レベルから外宇宙艦隊レベルにまで引き上げる事を容認する
- 各企業体が保有できる民間軍事会社の数を従来の5社から無制限にする
- 各企業体が民間軍事会社を設立するにあたり、1星系に設置できる企業は5社までとし、各星系に分散させるものとする
- 民間軍事会社が制限兵器を保有するにあたり、銀河連邦議会の承認を得る事を条件とする
これらの案は一見して民間軍事会社の兵力の青天井化のように見えるが、実際は1社あたりの保有戦力を抑止しつつ分散化させる事で内乱リスクを下げつつ、各戦力を銀河連邦領に満遍なく分散させ、各地の防衛を効率的に行える画期的な案であった。
ゼネラルグループ派の議員はこの案を支持、より具体的な「2990年における民間軍事会社の適切化の法案」として連邦議会に提出、1週間の審議を経て成立する事となった。
連邦議会で演説するゼネラルリソース派の議員
広大な連邦領をカバーするには最早民間軍事会社の力を借りるしかなかった
新たな戦力の誕生
こうして数百年ぶりに民間軍事会社を新設するチャンスを手に入れた各企業体はこぞって新たな会社設立に走った。
これは銀河連邦が提供する支援金が破格であった事もだが、各企業が手掛ける新兵器のアピールの場としても有意だったからである。
最初に声を上げたのはゼネラルリソース社の子会社、ゼネラルトレード社の当時専務であった矢島浩一郎が立ち上げたゼネラルリソース社100%出資の民間軍事会社矢島オフィス株式会社であった。
矢島オフィスはゼネラルトレード社が連邦未加入国からの兵器輸入を一挙に受ける立場であったため、当時銀河連邦との取引が始まったばかりの連邦未加入国アムネリア王国から大量の「新兵器」を買い取り、これを宣伝する為に動き出した。
彼らは純粋な民間軍事会社としての性質より、新兵器の宣伝を行う報道部隊としての性質が強く、軍人もそのスキルよりも容姿に長けた者を多数採用し、戦争と言うショービジネスの確立を行いつつ、新兵器をアピールした。
ゼネラルグループ系列の報道各社は矢島オフィスの「活躍」を声高に宣伝し、パイロット達も「アイドル」と呼ばれるようになって行った。
こうしたアイドルパイロッツ達による経済効果は高く、ゼネラルグループはその年の株価を大幅に更新する事となる。
また、この時矢島オフィスがアムネリア王国から輸入・運用した航宙機「シルバーホーク・シリーズ」は高い稼働率と火力を以て外敵を圧倒し、UGSFにおける早期採用に繋がり、ゼネラルグループは新ビジネスで先鞭を付ける事となる。
ゼネラルリソースがアムネリアから輸入した新型戦闘機シルバーホーク、超長距離巡行が可能な事から敵拠点への長距離侵攻任務などで活躍した
ゼネラルグループは勢いに乗り、この矢島オフィスと同じビジネスモデルの民間軍事会社、株式会社961プロダクション、東豪寺警備保障株式会社、を設立、ゼネラル系列企業の美城グループが美城プロダクション株式会社を設立。
ニューコムグループも後を追う形で株式会社765プロダクション、876プロダクション株式会社を設立し、アイドルパイロッツの黄金時代を迎える。
しかし、その栄光は長く続かなかった。
第1航空団事件の発生
2991年、矢島オフィスに激震が走った。惑星ディスティニーを襲ったUIMSの迎撃に向かった矢島オフィス第1航空団、通称SNAP隊が報道各社の注視の中、全滅すると言う失態を演じたのである。
SNAP隊は表向き、矢島オフィスにおいて最強のエースパイロット部隊と宣伝されていたが、実際は報道受けを良くするためだけに集められた容姿端麗なアクロバット部隊ではないかと言う疑惑も付いて回っていた事を否定すべく、ゼネラルグループが扱いに苦慮しながらも実績を上げていた事もあり、元々矢島オフィスはセールスありきで実力に乏しいと言う外部有識者達からの指摘を裏付ける結果となってしまったのである。
矢島オフィスはここにきてビジネスの見直しを迫られる事となった。
同社のチーフマネージャーである篠塚弥生はこれまでの反省を生かしつつ、自社の強みであるアイドルパイロッツ事業を両立させる為、次のような施策を打つ事を提案した。
- UGSFの正規兵採用年齢よりも若く、才能のある人材を学生インターンとして引き入れる。
これによりUGSFに先じて優秀な人材を選定、育成し先手を打つ。 - 引き続き、アイドルパイロッツとして容姿端麗な人材を受け入れる。
但し兵士としての素質のある人材を厳選する。(後述) - UGSFのOBをコーチとして引き抜き、人材育成に当てる。
- 1飛行隊を小隊規模から大隊規模に拡大、集団戦術を取り数の力で敵対戦力を圧倒するユニットづくりを行う。
- 人員の選定についてはエレクトロスフィア(電網上)で現実と同様の体験をシミュレート出来るM.S.B.Systemの提供をDN社から得た上で、アイドルとしての素質と兵士としての素質両方を持つ人材を選定する。
両方の素質を推し量るテスト・プログラムとしてカバーストーリーを用意し、アイドル体験ゲームを配信し、M.S.B.System上でアイドルとしての体験とパイロットとしての体験を同時に行わせ、そのスコアの高い人材を引き入れる※
M.S.B.Systemでエレクトロスフィアにダイブしてアイドル活動をする少女。
この時代においてはアイドル活動は専らエレクトロスフィア上で行われ、特に良質なダイブを提供するとともに現実との連携も可能なM.S.B.Systemは
マストアイテムだった。
G-1世代の誕生
こうして、矢島オフィスが最初に学生インターンとして採用したのは音ノ木坂学院の生徒達だった。
彼女たちは元々優秀なアイドルとして活躍していたが、前述のM.S.B.Systemでの戦闘シミュレーションでも高い実績をあげていた事が大きかった。
篠塚弥生は彼女たちを航空大隊μ'sとして採用、新たに輸入したアサルト・シルバーホーク・バーストを与え実戦投入した。
彼女達は9人という人数規模(SNAP小隊は4人)による集団戦術を取り、ベルサーやUIMSと言った宇宙規模災害勢力相手に善戦し高い評価を得た。
一方、765プロも第一期生の音無小鳥、日高舞、神田モモと言った実力派のアイドルパイロッツがニューコム社による単座カスタマイズ化した
ドラグーンN-7を駆り、軍事帝国アウスとUGSFが目下衝突中の最前線に立ち、一夜にしてアウスの1個艦隊を沈めると言う戦果を上げた。
他にもアイカツ・システムに長らく親しみM.S.B.Systemとの脳派シンクロが高いアイドルパイロッツはその特性からバーチャロイドの運用に適性有りとされ、矢島オフィス第4軍を結成するに至った。
矢島オフィス第4軍には後のエースパイロット、星宮いちご・霧矢あおい・紫吹蘭によって構成されるソレイユが配され、新型バーチャロイド
マイザーシリーズを駆り、地球エリアでの内乱(いわゆるグリプス戦役)で反政府組織ティターンズのモビルスーツを多数撃墜し活躍した。
同じく、M.S.B.Systemによるアイドル疑似体験プログラムで高い数値を上げていた学生では真中らぁら・南みれぃ・北条そふぃ・東堂シオン・ドロシー ウェスト・レオナ ウェストによって結成されたSoLaMi Dressingは機動性・汎用性の高いテムジン747で構成されたユニットであり、矢島オフィス第4軍の二巨頭として高い評価を得ている(彼女らはカラバに合流し、地球上のティターンズ戦力排除から後のニューディサイズ討伐にも参加している)
これらアイドルパイロッツはG-1世代と呼ばれ、その後も活躍を続ける事となる。
銀匙湾にて地上哨戒するSoLaMiDressing、機動力の高いテムジン747はティターンズの地上戦力をいともたやすく駆逐していった。
セカンドビジョンの時代
こうして新たな民間軍事会社の時代が幕を開け、各民間軍事会社は人員拡大に勤しんだ。
ニューコム系列の765プロダクションはニューコム製ジオキャリバーNUによって構成される765ProductionAllStarsを結成、更に13人乗り仕様のドラグーン3機で構成されるMillionStarsを結成、宇宙での戦闘に特化した部隊を構成し、対アウス、対バクテリアン、対UIMS任務で活躍した。
876プロダクションも日高愛、水谷絵理、秋月涼(後に315プロダクションへ出向)が加入しニューコム系列としては珍しい装甲車両打撃団を配した。
ゼネラルグループも315プロダクションの大幅な人数追加を行い、ユニットとしてはDramaticStarsに続きJupiter、Altessimo、Beit、W、FRAME
、彩、HighJoker、神速一魂、CafeParade、もふもふえん、S.E.M、THE虎牙道、F-LAGS、Legenders、C.Firstと16小隊を擁し、これを1個師団として運用する大胆な施策を取った。
大人数での集団戦は高い打撃力を誇り、UGSF正規軍に劣らない結果を残している。(315プロダクションは集団戦術に特に特化したジオキャリバー2GRを運用)
新興かつニューコム系列の283プロダクションも同様の戦術を取り、illumination STARS、L'Antica、放課後クライマックスガールズ、ALSTROEMERIA、noctchill、SHHis、CoMETIKと7個小隊を持ちつつ1個師団として運用した。
各社の打撃力の増加に遅れを取って、矢島オフィスも新たにオーシア・ヌマズエリアから9人のアイドルを招聘しAqoursと命名、連邦未加盟国から高額輸入したムラクモシルバーホークを配備するなど戦力増強に力を入れた。
こうして、ゼネラル・ニューコム双方が所有する民間軍事会社とその装備、兵員は急速に充実していく事となる。
災害特化部隊の登場とエルドラン協定
多元宇宙論でこの世界が構築されている事がディアスタシオン物理学によって証明されて以来、この世界線あるいは次元に別の世界線或いは高次元からの侵略に備える必要があった。
事実、γ世界線から襲来したバイド、λ世界線から襲来したアルデバロン軍等は銀河連邦にとって大きな脅威であり、その都度G.A.I.A兵器承認が行われ、波動砲搭載艦載機と言う採算度外視の航宙機を量産し対応しなければならず、こうした事象は今後も増える事が予測され、それは的中した。
その敵はΘ世界線から襲来した五次元人である。
五次元人はセレスティア人を越える極めて高いドークト能力を持ち、固体化ドークト(イル・ドークト)のボディを持つ巨大兵器(コードネーム・邪悪獣)で地球を滅亡寸前に追い込んだ。
しかし、そこに高次元生命体(コードネーム・エルドラン)が出現、地球の民間人、それも小学生達に対抗兵器(コードネーム・ライジンオー)を貸与し、それを以て対抗するようメッセージを残し消滅した。
ライジンオーは今までのUGSFのG.A.I.A兵器よりも強力であり、邪悪獣を撃破し事態は収束に向かう様に思われたが大きな問題が発生した。
まず、ライジンオーは生体認証起動システムであり、その運用には託された未成年の民間人を行使する必要があった。
また、エルドランはライジンオーは五次元人・邪悪獣の排除にのみ運用を許すがそれ以外の用途で用いる事を禁じていた事から、仮にこの警告を無視すれば高次元生命体を敵に回すリスクを背負っていた事である。
一介の民間人にこのような強力な兵器を無責任に任せる事は連邦法に反する。
さりとて彼らを正規軍に組み込めばなし崩し的にライジンオーを邪悪獣対策以外にも濫用する可能性が出る。
連邦議会及びUGSFはこのライジンオーの運用に頭を悩ませる事となったが逆転の発想でこれを解決させる事となる。
民間組織でありながら連邦法の制限を請ける組織、即ち民間軍事会社の預かりとして、邪悪獣のような「宇宙規模災害」の対処専門のチームを設立し、そこに配備し、新たな法律でこのように高次元生命体から用途を災害対策限定として授与された兵器を災害時のみ運用するという事としたのである。
真っ先に白羽の矢が立ったのはゼネラルリソース系列で国民からの評価も高い矢島オフィスであり、対災害専門部隊・矢島オフィス第6軍が創設され、彼らはそこでの預かりとなった。
これ以降頻発する他の世界線或いは高次元からの侵略とそれに対する高次元生命体からの兵器提供と運用はこのルールで動く事となり、最初のルールの最初の適用が高次元生命体エルドランからもたらされたものであった事からエルドラン協定と呼ばれる事となる。
その後、邪悪獣は矢島オフィス第6軍の活躍によって全滅、五次元人も撤退し、ライジンオーは「エルドラン協定に定める法案第18条」の適用として地下シェルターに封印措置が施され、次に起きうる「災害」の日まで眠りに就く事となる。
エルドラン協定は極めて一時的な措置法であり、今後このような事態は発生しないと考えられていた。
しかし、その予想は覆される事となる。
その翌年、先史文明アケーリアスの遺跡が点在するアンファ恒星系においてアケ―リアスの大量破壊兵器(コードネーム・永遠のプリンセス)がデストロン破壊大帝デスザラス一派によるハッキングを受け暴走、太陽系に向けて侵攻を始めると言う「宇宙規模災害」がまたしても勃発したのである。
同アケ―リアスのAIユーリィ・キューブはこれに対抗できる「唯一の兵器」を携え地球に来訪、最初に出会った地球人「七瀬留美」にこれを託したのである。
奇しくも、七瀬留美は矢島オフィスのアイドルであり、当時のミュージシャンオーディション最高峰「アイドルアルティメット」と双璧をなすオーディション「銀河お嬢様アワード」において876プロダクションの日高舞を破り優勝したランカーアイドルであり、その後の矢島オフィスの対応は早かった。
七瀬留美はこれまで同様M.S.B.SYSTEMによるカバーストーリーでアイドルとしてだけではなくバーチャロイドパイロットとしても適性有とされており、アイドルパイロッツとして配置転換するのは容易であった。
加えて連邦の法解釈上ではデストロンも、永遠のプリンセスも「宇宙規模災害的存在」と見做す事が出来た為、七瀬留美を矢島オフィス第6軍のパイロットとして、ユーリィ・キューブから託された機動兵器エルラインをエルドラン協定に定める法律第4条の適用として運用し、直ちに永遠のプリンセスの暴走を食い止める事に成功したのである。
この永遠のプリンセスに搭乗していたアケ―リアス文明のコールドスリーパー達は「普遍的な平和を求め生み出された存在」であった為、後に地球に帰属し、地球の防衛に協力する事を確約した。
こうして、銀河連邦は措置法であったはずのエルドラン協定を2回も続けて行使し、そして宇宙規模災害を防ぐ事となったのである。